2013年12月10日火曜日

屋久島シンポジウムの報告 その2

パネルディスカッション
「豊かな屋久島の多様性の恵みを子供たちの未来へ」
     
  東京農業大学教授(コーディネーター)     武生雅明氏
  認定NPO法人富士山クラブ理事・事務局長  青木直子氏
  弁護士、関東屋久島会相談役          牧  良平氏
  作家・NPO法人屋久島エコ・フェスタ理事長  古居智子氏


武生さん

屋久島は植物の固有種が多いのが魅力。花崗岩で、貧栄養の山なので矮小化した固有亜種・変種の植物が多い。緯度30度で年較差が20度を超えるのにブナやミズナラなどの落葉広葉樹が少なく、スギが優占するのはめずらしい。スギは起源の古い植物群で、アジアや北米にわずかに生き残るのみ。世界の端っこの日本の、端っこの屋久島にスギ林があることにウィルソンが感激するのはわかる。スギ林では樹木の直径は2m、高さは30mを超え、低海抜地のシイ林やカシ林、本州のブナ林と比べ圧倒的に大きいことが特徴。

私は長野県北安曇郡小谷村(おたりむら)で自然を修復する試みをしている。悩みは屋久島と同じ。どちらも1960年代に大規模開発があったが、地域の活性化にはつながらず、若者の流出を招いた。

過疎高齢化が進み、耕作放棄地が増えると、田畑に森がせまり、鳥獣被害が増える。鳥獣被害が増えると更なる耕作放棄を招く悪循環に陥る。
この悪循環を断ち切り、村に若者が戻すことを目的に、若者たちの教育を進めている。



青木さん

平成24年11月に世界遺産条約採択40周年を記念して「世界遺産と持続可能な開発:地域社会の役割」、いわゆる「京都ビジョン」が採択された。

富士山は屋久島や白神山地と一緒に世界遺産になれるだろうと思っていたのになれなかった。開発やゴミ問題、トイレ問題が原因で、富士山は世界自然遺産にはなれない。富士山周辺の25資産を含んで「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」という世界文化遺産。しかも、3年後までにさまざまな問題を解決する報告書の提出という宿題つき。

思っている人が守る、地域の人(住んでいる人)が守る、若い人たちが関わる。これしかない。


牧さん

今ある豊かなものを残すなど、とんでもない。もうすでに豊かではない。1960年代にチェーンソーで伐採するようになって15年で大切な森がまるはだかになった。しかし、植林はする必要がない。スギの植林などすると漁に影響する。

屋久島は木がなくなってもすぐススキが生え、2~3年でアオモジに変わり、10年もたてば広葉樹林になる。




古居さん

私も屋久島に移住して20年になる。お隣に座ってらっしゃる牧良平先生が月に一回くらい屋久島にいらして、私が山に入りたいときに一緒に行ってくださる。贅沢なガイド付きの登山をして楽しんでいる。

世界自然遺産登録20周年を迎えて、屋久島にはこの20年を振り返ろうという動きがある。20年前は観光客、登山客の数がこんなにも多くなるとは誰も予想していなかった。トイレの増設や、し尿処理も後手に回っている。20年の間にガイドの数が増えて200人を超えた。民宿なども約250件になった。観光客の増加に伴い、観光を生業とする人が増えた。Uターン族、Iターン族の若者が観光に携わるケースも多い。屋久島で生活しようと思っても就職口が少ないが、ガイドになること、自分の家の一部を民宿にすることなら容易いからかもしれない。

委員会をつくり、入山料についてようやく議論が始まろうとしている。入山料でし尿処理の費用をまかないたいところだ。昔は屋久杉の板を人が背負って山から下りていたが、今はし尿を背負って下りている。大変な作業です。そのことを皆さんに知ってもらって、そこに費用がかかるということを理解してもらうことが大事。携帯トイレで各自が持ち帰ろうという運動も出てきた。

あまりにも縄文杉登山に観光客が集中しているので、いかに分散させるかということで、里のツーリズムの開発という動きも出ている。屋久島では海岸に沿って山の麓に集落が点在している。集落をつなぐ道路が長く整備されていなかったこともあり、各集落がとても個性的で、方言も少しずつ異なる。こういった集落の特性を生かして、それぞれの里にも人が集まるような仕掛けが必要だ。


武生さん

実際にそういうものを行うためには、そのためのガイドが必要になってくる。集落の中での伝統的な知識の伝達がどうなっているのかということに興味がある。以前屋久島を訪れたときに、ニセ(二歳)組という強固な若者組があって、ここでいろいろな伝達が行われて、教育が行われたということを聞いた。



参加者Aさん

ときどき屋久島に帰省するが、里山ガイドの重要性を感じる。この夏に横川渓谷で起きた死亡事故は、里からすこし山に入った場所で川遊びができる場所。地元の人間は危険なポイントがわかって遊んでいるが、観光の人だけで行くと、それがわからず事故につながってしまった。


武生さん

こういうことを地域で共有することがとても大切だ。地域の中での生活技術を伝承していくことが大事だ。


参加者Bさん

とても長時間のシンポジウムだったが、もうひとつの20周年のシンポジウムよりも良かった。
屋久島が世界自然遺産に登録されるすこし前から、屋久島に魅了されて、毎年、屋久島に通った。その間に深刻になったのがヤクシカの被害。西部林道は歩くと気持ちの良い場所だったが、照葉樹林が荒らされてしまった。ヤクシカ対策に予算を取ったという話も聞いたが改善されない。


参加者Cさん

ときどき屋久島に行っている。一湊(いっそう)から奥に入った白子山辺りによく行った。地元の子どもと一緒に川で遊び、家族だけでは味わえない楽しみがあった。他の集落でガイドを頼んだこともある。良い場所に連れて行ってもらえたが、地元の子どもたちが遊んでいる場所に踏み込むことにもなる。屋久島にある「島いとこ」という慣習のように、地元の人と交流できるような形のエコツーリズムが普及するのが理想。


参加者Dさん

屋久島の観光客は縄文杉を見ることだけが目当て。環 境省と林野庁の管理体制が入り組んでいることを理由にせず、地元の人が率先して、自らやる。いかにして縄文杉だけの観光ではなく、屋久島の生い立ち、歴史的なこと、海岸線からの植生、昔の暮らし、そういうことを含めて、島全体を考えること。最初にすべきことは、ガイドが勉強すること。ガイドが増える過程でガイドの質が落ちた。移住して半年もたたないうちに自分の仲間を呼び寄せて、すぐにガイドに仕立て上げている。

さきほど入山料の話が出たが、(トイレなど)基礎的な問題がおろそかになっている。まず屋久島が自分でプランを立てるべき。テレビ局の企画でタレントが屋久島に行く映像を見ていると、苦言を呈したくなる。学者ももっと屋久島の実態に即した基本的に事をやらなくてはダメだ。

確かに、永田では岳参りの復活を全島に広げようという活動をしているようだが、それよりも屋久島全体でのミーティングが必要。一か所が決めたことをみんなに押し付けようとしても無理がある。

多様性をどう保全するか、植生をどう保存するかも含めて、まず、基本的なことを語り合うべき。政官一体となり、環境省、林野庁、学者、地元で、実行可能なことを具体的に話し合うことをしていかなければ何も変わらない。トイレの問題も、ガイドの問題も、20年前と全く変わらない。なにひとつ進展がない。


岩川さん

古居さんの話に感銘を受けた。また、武生先生の話は簡潔で良かった。青木さんの話は、屋久島も縄文杉だけの一点豪華主義、富士山も登ってくればOKという意味で同じだと思った。観光地の同じ
悩みを共有して、連携してやっていきたい。

屋久島でも世界自然遺産登録20周年のイベントがあった。自分たちはこういうことをやっていきたいという中学生や高校生の発表もあった。里めぐりをやりたい、縄文杉のほかにも観光地を広げたい、ヤクシカを屠殺して食料にしたいなどの意見が出た。屋久島はシカに食い荒らされた土地も囲いをするとすぐに元に戻る恵まれた自然がある。問題を解決するには、人手がかかり、コストもかかるので、町長が委員会を作って入山料をどうするかという検討を始めた。委員会では新しい役場は地元の木材だけで建設して、観光客も訪れる拠点にしたい、というようないろいろな知恵を集めている。

ぜひ、幅広い層に訪れてもらって、入山料を払っていただき、お土産も買っていただく、そういう形で地元に就労の場ができて若い人が定着し、発展していくことを願う。屋久島出身者に、ときどき帰ろう、ふるさと納税をしよう、と呼びかけている。若い方にも一度訪れてほしいとPR活動をしている。東京農業大学にも協力してもらい、今後ともご理解とご協力をお願いしたい。


武生さん

共通の課題を持った地域間の協力や、都市と地方との交流、とくに若者の交流を考えながら、今後も屋久島の保全を考えていきたい。


最後に、屋久島の子どもたちが故郷を想って詠んだ詩を朗読し、シンポジウムを終えた。


実施記録
世界自然遺産登録20周年記念イベント屋久島ビジョン21 Vol.2
シンポジウム
屋久島の多様性がもたらす豊かな恵みを子供たちの未来へ
100年後のこどもたちに、私たちは屋久島の何をどう残していけるのか?

基調講演 「日本文化と森林」
   評論家、日本福祉大学、立正大学名誉教授  富山和子氏

現地報告 「ウィルソンの屋久島」
   NPO法人屋久島エコ・フェスタ理事長  古居智子氏

パネルディスカッション 「豊かな屋久島の多様性の恵みを子供たちの未来へ」
   東京農業大学教授(コーディネーター)     武生雅明氏
   認定NPO法人富士山クラブ理事・事務局長  青木直子氏
   弁護士、関東屋久島会相談役          牧 良平氏
   NPO法人屋久島エコ・フェスタ理事長     古居智子氏

実施日   2013年12月07日
会 場   東京農業大学 131教室
主 催   屋久島イベント実行委員会
後 援   鹿児島県、屋久島町、屋久島観光協会、東京農業大学
協 力   日本エアコミューター(株)、認定NPO法人富士山クラブ、関東屋久島会
運 営   チカソシキ

運営ディレクション   臼井ちか ( チカソシキ )
               高橋 颯    (東京農業大学)
               大原佑太   (東京農業大学)
司 会           神谷美保子
チラシデザイン     西川高司  (屋久島観光協会)